東京高等裁判所 昭和48年(ネ)1400号 判決 1974年7月10日
被控訴人 帝都信用金庫
理由
一、当裁判所は次のとおり付加訂正するほか原判決と同じ理由で控訴人の本訴請求は失当であると判断するものであつて、原判決の理由をここに引用する。
(一) 原判決九枚目裏一行目「二月二四」から「六月二四日」を「二月二四日(同年四月二一日設定登記)及び昭和三八年六月一七日(同年同月二四日設定登記)」と訂正する。
(二) 原判決一二枚目表九行目「そこで」から一三枚目表五行目「信じたこと」までを次のとおり訂正する。
「そこでつぎに本件各取引に関し、被控訴人は、坂上良三が右訴外会社の取締役会の承認を得ないことにつき悪意、又はそのことを知らなかつたことにつき重大な過失があつたか否かにつき判断するに、《証拠》によると、
(1) 坂上良三と被控訴人とは昭和三五年以前から取引関係があり、坂上良三は昭和三四年頃控訴人から頼まれて、被控訴人を介して全国信用金庫連合会から控訴人の関係するダイヤ製版株式会社に対する金三〇〇万円の融資を斡旋し、右債務の担保のため控訴人は本件建物に抵当権を設定し、その際本件建物の権利証は被控訴人に預けられていたところ、坂上良三は昭和三五年一二月訴外会社の代表者に就任した後の同年一二月二二日訴外会社の代表者として被控訴人との間に金二五〇万円の金銭消費貸借契約ならびに本件建物につき根抵当権を設定して取引を継続していたこと。
(2) 昭和三七年二月頃、坂上良三は訴外会社とともにその代表取締役を兼ねていたさくら交通株式会社の設備資金として金二、〇〇〇万円の借入れを被控訴人に申入れ、担保として訴外会社所有の本件建物のほかさくら交通株式会社所有の不動産、訴外高橋清子及び坂上良三の個人資産等を提供したこと、及び、当時タクシー事業を目的とするさくら交通株式会社の営業は順調に発展することが予想されていたこと、
(3) その際その衝に当つた被控訴人金庫職員訴外松井五郎は坂上良三に対し、右担保提供について訴外会社の取締役会の承認を受けているか否かを確めたところ、坂上良三から承認を受けている旨の返事があつたので、坂上良三と被控訴人金庫との従来の取引のあつたこと、控訴会社の権利証は被控訴金庫が保管中であること、さらに本件取引には前述のような他の担保もあつたこと、最初の取引当時には登記手続に取締役会の承認書を必要としなかつたこと等のため、あえて訴外会社に取締役会の承認書等の書面を求めることなく、貸付ならびに本件根抵当権設定契約をすすめたこと、」
(三) 原判決一三枚目裏九行目から同一四枚目表六行目までを次のとおり訂正する。
「等が認められる。右認定に反する原審証人今泉ミツヨ、当審証人坂上良三の証言、甲第一号証中前記認定に反する部分は措信し難い。
以上の認定事実によると、被控訴人は、訴外会社の代表取締役坂上良三が本件各取引をなすにつき、訴外会社の取締役会の承認のないことを知らず、当時訴外会社の代表取締役であつた坂上良三の取締役会の承諾を得ている旨の言をた易く信じたものと解される。右被控訴人が坂上良三の言をた易く信じた点については若干の過失があるものといわざるを得ないけれども、前記認定のような事情に照すと、担保提供を受けるにあたつて訴外会社の取締役会の承認の確認につき著しく注意義務を怠り、あたかも悪意と同視できるような重大な過失があつたとまで、認めることはできない。」
二、控訴人の主張(一)(二)は要するに本件根抵当権設定契約につき坂上良三が訴外会社の取締役会の承認を得なかつたことを被控訴人が知らなかつたことについて重大な過失があつたというに尽きるものであるが、原審ならびに当審における各証拠によつても、前記認定を覆えし、控訴人の主張を認めることはできない。
したがつて、右と判断を同じくして控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。
よつて、本件控訴を棄却
(裁判長裁判官 石田哲一 裁判官 小林定人 野田愛子)